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山形マット死、元生徒7人の上告退ける…賠償命令確定神戸新聞ニュース
社説/2002.03.21/マット死判決/自白偏重が混乱を招いた ひとつの事件で、異なる判決が三つも出る。きわめて異様で、不可解なことといわなければならない。
中学一年生の男子生徒が、体育用のマットの中で窒息死した山形県新庄市立明倫中のマット死事件をめぐる民事訴訟で、山形地裁は、傷害と監禁致死容疑で逮捕・補導された当時の上級生ら元生徒七人全員のアリバイを認め、自白の信用性を否定し、遺族側の損害賠償請求を棄却した。
全員の「無罪」は、これまでの山形家裁と仙台高裁の判決を覆す内容だ。
事件は、一九九三年一月、明倫中の体育館用具室で、一年生の生徒が巻いて立てかけてあったマットの中で逆さまになって死んでいるのが見つかった。
物的証拠が乏しく、証拠となったのは七人の元生徒の自白だけだった。
最初に山形家裁は、七人のうち四人の関与を認め、三人は犯行を立証できないとして不処分とした。仙台高裁は不処分とされた三人を含む全員の関与を認めた。
今回の判決は、死亡した生徒への日常的ないじめは認めたものの、事件との関係を否定し、七人が体育館の用具室にいなかったとのアリバイを認めた。自白については「裏付けるべき客観的証拠がなく、逆に客観的証拠と矛盾する」とした。
捜査手法も、厳しく批判した。「十四歳以下の少年たちだったにもかかわらず、保護者等の立ち会いが排除された状態で長時間、過酷な取り調べを受けた」という。
今回の判決は、先の家裁と高裁の判断で生じていた論理的な矛盾をただした点に意義が認められる。だが、一部の元生徒らによる日常的ないじめを認めつつ、生徒の死亡とは直接、関係ないとする判断は、遺族には受け入れがたいものであろう。
真相はどうだったのかという疑問は、依然、残したままだ。
判決も指摘するように、混乱の原因は自白に偏った捜査にある。乏しい証拠が、無理な取り調べを生む。過去のえん罪で繰り返されたパターンだ。
この事件は、昨年四月に改正された少年法論議のきっかけにもなった。
最初に山形家裁で保護処分と不処分という正反対の判断を示したのは一人の裁判官であり、事実認定の甘さが指摘された。そのことが、改正法で重大事件における検察官の立ち会いや裁判官の合議制などの導入につながった。
少年審判の生命線は、正確な事実認定であり、その基になるのは厳正な捜査だ。司法の混乱は、そのことを再認識させた。